蓄熱とは物質に熱を蓄えることです。
狙った温度において熱を蓄え、利用する技術で品質安定、性能向上、省エネを達成する蓄熱技術が注目されています。
断熱とは異なる技術で、断熱が熱の伝わりを遅くするのに対し、蓄熱は熱を貯め込み使う技術であるため、貯め込んだ熱=エネルギーを再利用することができます。
つまり蓄熱技術は温度を保つだけでなく、省エネ、コストダウン、温室効果ガス排出抑制、脱炭素社会、SDGs(目標11:持続可能な都市、目標13:気候変動など)といった目的にも役立ちます。
物質の比熱、すなわち温度を変化させるのに必要な熱エネルギーを利用した蓄熱技術。
比熱が大きい物質はそれだけ温度を変化させるのに大きい熱エネルギーが必要になり、その熱量は物質に蓄えられます。
湯たんぽが長時間温かいことや、建物や窯にレンガを使用して内部温度を保つのはこの顕熱蓄熱によるものです。
物質自身の温度変化そのものを利用しているため、物質が安定な温度域で常に効果が得られます。
一方で下で紹介する2種類と比べ蓄熱密度(同じ質量中に蓄熱できる熱量)が低く、高い効果を得るにはより量が必要になります。
顕熱蓄熱はどの温度でも安定して性能が発揮できる一方で、蓄熱密度が低く蓄熱効果としては十分に得づらい面があります。
化学反応の際に起きる発熱・吸熱エネルギーを利用した蓄熱技術。
物質の組み合わせ、反応の種類によっては非常に大きい熱エネルギーを利用することができる一方で、反応を安定させることが難しいことがあったり、材料や反応後にできる物質の健康リスク・環境リスクを考慮しなければならないなど他2種類よりも扱いに気を付ける必要があります。
例としては下記のような反応があります。
[反応例]
Mg(OH)2 ⇔ MgO+H2O
Ca(OH)2 ⇔ CaO+H2O
CaCO3 ⇔ CaO+CO2
化学蓄熱は高蓄熱密度、高温での蓄熱が可能な一方で、安定性・安全性に欠ける面があります。
相変化、すなわち物質の状態(気体・液体・固体)が変化するのに必要な熱エネルギーを利用した蓄熱技術。
例えば水蒸気↔水↔氷のような状態の変化が相変化であり、この時水が水蒸気になる温度(沸点)や水が氷になる温度(凝固点)はそれぞれ100℃、0℃で一定のままになります。
これは相変化に熱エネルギーが使用されているためで、相変化に必要な熱エネルギーの総量を潜熱と呼びます。
潜熱は顕熱に比べ蓄熱密度が高く、また相変化している間一定の温度に保たれることから特定の温度域での保温に向いています。
代表例としては水やパラフィン、無機塩などがあり、多くの場合液体↔固体の融解熱・凝固熱を利用しています。
これらの材料を、相変化(phase change)を利用する材料(material)であることから、潜熱蓄熱材(Phase
Change Material)PCMとも呼びます。
■ 顕熱と潜熱の状態イメージ
潜熱蓄熱は顕熱蓄熱と比べて蓄熱密度が高く、相転移温度での定温管理が可能であり、化学蓄熱より安定・安全に扱うことができます。
潜熱蓄熱材には主に以下の3つの種類があります。
① パラフィン ② 脂肪酸 ③ 水和塩
■①パラフィン
安定性、安全性が高く、長期間の仕様でも性能劣化がほとんどなく安全に使える。蓄熱密度は潜熱蓄熱材の中ではやや低い。
■②脂肪酸
安全性が高く物質自身の性能劣化は少ないが、パラフィンと比べると耐久性に劣る。蓄熱密度はパラフィンと同様やや低め。
■③水和塩
安定性、安全性に欠けるが蓄熱密度が高い。
以上の事からパラフィンは蓄熱材に適した材料で、安全かつ長期に渡り安定して蓄熱効果が発揮できます。臭気も少なく、皮膚刺激性や腐食性もないため使用上のリスクは低いものの、消防法上の危険物(第4類第3石油類)であるため、取扱量等に制限があります。
輸送時に蓄熱材を同梱することで、外気の温度変化による影響を抑え、荷物の温度を一定範囲に抑えることができます。
低温時に蓄熱材を冷やし、高温時に利用する、またはその逆により冷暖房等のエネルギー使用量を抑えられます。
夜間等電気料金の安い時間に冷却しておき、昼間に利用することで電気代を節約できます。