医薬品・食品に欠かせない“定温輸送”の基本―なぜ温度管理が重要なのか?

2025年3月24日

私たちが日頃手にする医薬品や生鮮食品は、温度管理をおろそかにするとその品質が大きく損なわれてしまいます。たとえば、「温度管理のミスでワクチンが廃棄された」というニュースを耳にしたり、「通販で購入した果物が腐っていた」という経験がある方もいらっしゃるかもしれません。

こうしたトラブルを回避し、安全かつ最適な状態で商品を届けるには適切な温度管理による輸送が欠かせません。気候変動による猛暑や寒波の中、商品に最適な温度を保つ「定温輸送」の重要性とその方法について解説します。

温度逸脱がもたらす具体的リスク

商品によってはわずかな温度の逸脱が深刻なリスクにつながります。身近なのは食中毒です。食中毒を引き起こす細菌の多くは、室温(約20℃)で活発に増殖し始め、人間や動物の体温ぐらいの温度で増殖のスピードが最も速くなります。一方で、チョコレートは低温では風味が落ちてしまいますし、米やジャガイモなどに含まれるでんぷんも低温で劣化し味が悪くなるため、食品の種類に応じた温度管理が必要です。

また、医薬品やワクチンではさらに徹底した温度管理が必要で、もし逸脱すれば成分が変性し、人体に思わぬ悪影響を及ぼす可能性があります。特にワクチンは種類ごとに厳密な保管温度が定められており、慎重な扱いが求められます。

さらに、経済損失や廃棄リスクも無視できません。輸送時の温度逸脱で商品価値が大きく損なわれれば、企業や自治体は大量の廃棄処分や返品対応に追われます。そればかりか、商品や体制に対する信頼を失うことでブランドイメージが大きく毀損する可能性もあります。とりわけ、食品や医薬品は安全性・有効性に直結するため、一度失った信用を取り戻すのは容易ではありません。

「定温輸送」による温度管理が求められる製品

前述のように、厳密な温度管理が求められる代表的なものが医薬品やワクチン、生鮮食品です。そのほかにも、化粧品や電子部品、種子・苗、美術品、動植物などが温度変化に弱いものとして挙げられます。こうした商品の場合、決して凍らせてはならず、一定の温度を保ちながら保管・輸送を行う必要があります。倉庫などであればそれほど難しくありませんが、輸送する場合はコンテナ内の温度を一定に保つ「定温輸送」を行う必要があります。最近では細胞を生きたまま運ぶ「ライブ輸送」といった方法も登場しており、これまで以上に輸送時の温度管理方法が進化しています。

なぜ温度管理の重要性が高まっているのか

ではなぜ近年、輸送時の温度管理が重要性を増しているのでしょうか。その背景には「グローバル化と消費地の多様化」「高まる品質・安全志向」「物流の高度化」の3つが挙げられます。

グローバル化と消費地の多様化

EC市場が拡大し、国内外問わず生鮮食品や医薬品などを輸送するケースが増えています。遠隔地への輸送が一般化するほど、温度管理の重要度は高まります。

高まる品質・安全志向

消費者は「新鮮な商品」や「安全な商品」を求めるのが当たり前になりました。生鮮食品や医薬品の安全性や効果は、温度逸脱によって大きく損なわれます。そのため、企業もコールドチェーンの構築に投資を行うようになりました。

物流の高度化

IoT技術を活用した温度センサーやGPSの普及により、輸送中の温度履歴を“見える化”できるようになりました。これにより、荷主は輸送中の温度逸脱の兆候を把握できるようになり、物流企業にはより厳密な温度管理が求められるようになっています。

知っておくべき国内外の規制

荷主や物流企業が厳密な温度管理を行なわなければならないもう一つの理由が国内外の規制です。たとえば医薬品に関してはGDP(Good Distribution Practice)が国際的に重視されており、日本国内でも厚生労働省からガイドライン(※)が示されています。これは医薬品の高水準な品質保証の維持と流通過程での完全性を保証するためのガイドラインで、温度管理もポイントの一つとして挙げられています。

厚生労働省「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」

一方、食品分野ではHACCP(※)が制度化され食品事業者を対象に一定の衛生管理が義務化されました。物流業でも荷主の意向や取り扱い商材によってはHACCPへの準拠が求められるケースがあり、その場合は温度管理が重要な要素の一つとなります。

厚生労働省「HACCP(ハサップ)

定温輸送を支えるインフラと最新技術

厳密な温度管理を行う定温輸送を実現するためには、冷凍・冷蔵倉庫や保冷車両などコールドチェーンインフラが不可欠です。また忘れてはならないのが、定めた温度をしっかりと保持するための保冷剤です。これまでは、氷やドライアイスが用いられてきましたが、温度帯の安定性や再利用などに優れた潜熱蓄熱材(PCM)のような新しい保冷素材が注目を集めています。ENEOSサンエナジーが提供する「エコジュール」も潜熱蓄熱材の一つで、生活温度領域(5℃~40℃)の中で特定の温度を長時間保つことができます。エコジュールは、血液検体の定温輸送に採用されるなど、厳密な温度管理が求められる場面で、高いメリットを発揮します。

またデータロガーなどIoTを活用し、リアルタイムに温度をモニタリングすることで万一、温度の逸脱が発生しそうな場合は通知が届き、適切な対応を施すことで品質劣化や廃棄のリスクを最小限に抑えることが可能になりました。

徹底した温度管理は競争力に直結する

定温輸送は、商品の「安心・安全」を支える物流の要の一つです。適切な温度管理を徹底することは、商品の品質を守るだけでなく、消費者や荷主となる企業からの信頼性向上も期待できます。

さまざまなモノが輸送されるようになった昨今、これまでのように、ただ冷やすだけでなく、運ぶ商品ごとの適温をキープしたり、0℃以下にならないようにしたりといったニーズも拡大しています。こうした状況のなか、潜熱蓄熱材のような先端素材やIoTソリューションを取り入れ、理想的なコールドチェーンを構築できれば、競争力の強化にもつながるはずです。

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